エビデンスをもとにした周術期の管理方法をERASイーラスと言います。
周術期のエビデンスがしっかり提示してあると、術後の安全性が数字で視覚化できるから信頼性が高いですよね。
ERASイーラスが最も活用に薦められる理由です。
今回は周術期のERASイーラスとは、エビデンスに基づいた周術期管理法と言っても、具体的にどういった内容なのかわかりやすく解説していきます。
この記事を読んでわかる内容
では、さっそく見てみましょう。
目次
ERASイーラス(enhansed recovery after surgery)とは、日本語では術後回復強化という意味で、ERASイーラスは術後の回復を速めるための医学的根拠のようなものと思ってもらっていいと思います。
つまり、エビデンスから得られた結果をもとに方法が取り入れるので、無駄なく医学的に体への侵襲が最小限になるので、術後の回復を早めてくれる実践と結果の賜物ってわけですね。
もっとわかりやすく言うと、術後PDCAを回して改善され続けているのがイーラスです。
が挙げられます。
そもそもERASイーラスは、ヨーロッパで提唱されたもんでして、それまでの周術期管理は文化的で経験的なやり方が漠然と伝わってきたものを、先輩の指導のもとでされてきてたんです。
ERASイーラスの登場により、エビデンスに基づいた管理で行われるようになったわけです。
昔ながらで行われてきた例としては、以下がありました。
などが、効果がないまま漠然と昔から「そうしてきたから」といった理由だけで行われていたんですね。
ERASイーラスが登場してから、徐々にエビデンスがない方法は無くなっていきました。
今の周術期管理は、ERASイーラスを基にプログラムされている病院や施設が多いので、看護師やそうでない人も理解しておくといいと思います。
ERASイーラスは、数年おきにガイドラインが改定され続けているので、手術に使える内容にどんどんバージョンアップされているところです。
入院前に手術に関しての情報を十分に提供するということ。
術後経過の予測や食事、離床など、患者さんがすべきことを具体的に説明することで、安心を与えるとともに早期回復、早期退院が可能になります。
術前の下剤のことですが、もともと縫合不全や創感染症の予防やリスク回避のためにしていました。
でも、効果がなく逆に発生率が増加することがあると臨床研究で分かっています。
また、脱水や電解質異常をきたし、心血管系の合併症増加や術後の腸管麻痺を増やすことがあります。
絶飲食は、誤嚥性肺炎を予防するものでされてきました。
でも、RCTランダム化比較試験によって術後2時間前までの飲水を許可しても合併症は増えないとエビデンスで証明されました。
麻酔ガイドラインで飲水2時間前、固形食は6時間前までを許可し推奨しています。
また、前日夜と手術2~3時間前に炭水化物飲料を飲むことで、口渇・空腹感・不安・術後インスリン抵抗性を軽減することができ、術後の回復が促進され在院日数が短縮したというRCTもある。
術前のプレメディ(麻酔前投薬)は術後覚醒を遅らせ、離床や食事摂取を遅らせます。
ただ、不安が強い場合は短時間作用型の抗不安薬なら問題ないです。
プレメディがあった時代は、ベッドでのOP室搬入が余儀なくされていましたが、プレメディが無くなってから独歩での入室が可能となり人手もいらなくなったんです。
結腸直腸手術では低用量未分画ヘパリンの皮下投与が、術後の深部静脈血栓症(DVT)と肺血栓塞栓症(PE)での死亡率減少に有効であるというエビデンスがあります。
抗血小板薬や輸液負荷はDVTには予防効果がないですが、PEには有効である可能性はあります。
低分子ヘパリン(クレキサンⓇ)と術後の硬膜外鎮痛との併用により、硬膜外血腫が増える可能性があります。
一方、低分子ヘパリンとNSAIDsとの併用(消化管出血が危惧される)は安全であると考えられています。
出血リスクが高い場合は、弾性ストッキングなどの代替え的な血栓予防を選択すべきです。
嫌気性・好気性の両方に有効な抗生剤の投与を予防的にすることで、感染症を最小限にすることが出来ます。
初回は皮切の1時間前に投与し、3時間を超える時は追加投与します。
長時間作用型よりも短時間作用のプロポフォールやレミフェンタニルの方が覚醒が早く回復に有効と考えられています。
硬膜外麻酔は術後の回復に有効というエビデンスはないのですが、全身麻酔薬の量を減少できたり、胸部硬膜外麻酔とすることで、交感神経が遮断され、腸管麻痺の予防に効果的であると考えられています。
また、ストレスホルモン放出を阻止したり、術後のインシュリン抵抗性を軽減することも期待できま
す。
術後の悪心嘔吐(詳しくはPONV参照)は、痛みよりストレスが強いと言われています。
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危険因子が2つ以上あれば手術後に制吐剤を投与することを考慮すべきですね。
開腹手術と比べると創部の合併症の発生率が低く、術後初めての排便までの時間、在院日数が短縮したとの報告があります。
術後ルーチンでの経鼻胃管留置をしないことで、発熱・無気肺・肺炎の発現を減少することが証明されています。
また最近の33のメタアナリシス研究では、経鼻胃管を入れない方が腸管機能の回復が早いことも明らかになっています。
低体温は、内分泌代謝反応、交感神経反射や線溶系の変化を引き起こし、出血のリスクを増長させます。
手術後2時間加湿すると出血量と合併症発生率が有意に低下したという報告もあります。
輸液は習慣的に行われてきていますが、術中術後の過剰な輸液は胃腸機能の回復を遅らせ、創傷や吻合の治癒や組織の酸素化にも悪影響を及ぼし、在院日数を延長させます。
過剰輸液を回避し、体重に基づいた輸液量の調整により術後合併症の減少させ在院日数も短縮されます。
術後の輸液を制限する最良の方法は、早期に経口摂取に戻すことであり、術後1日目にはそうするべきであると考えられています。
結腸手術後のドレーンは、縫合不全や他の合併症の発生率、重症化を低下させないことが分かっておりドレーン留置は推奨されていません。
2012年の改定では、導尿カテ―テル早期抜去群(術後1日目)と対照群(およそ術後4日目)を比較したRCT試験では、早期抜去群で尿路感染が有意に低下(2%vs14%)したことから、早期抜去を推奨されています。
術後イレウス予防はERASにおいて最も重要です。
胸部硬膜外鎮痛は静脈内オピオイド投与よりもイレウス予防に非常に有効です。
術中術後の過剰輸液は、胃腸機能の回復を遅らせるため避けるべきです。
酸化マグネシウムは、術後の腸管回復が早くなることが証明されています。
腹腔鏡手術は開腹手術に比べて腸管回復が早く、経口摂取も早く再開できます。
術後2~3日目の硬膜外鎮痛は、オピオイドが入っていなくても、開腹手術でも腹腔鏡手術でも鎮痛効果は高くなります。
静脈内オピオイド鎮痛は、硬膜外鎮痛よりも鎮痛効果は低く、外科的ストレス反応の軽減という面でも硬膜外鎮痛に劣っています。
また、硬膜外鎮痛は術後合併症を減少させる効果もあります。
硬膜外カテーテル抜去後の鎮痛には、NSAIDsが有効であることが証明されています。
胃腸切除後に早期経口摂取群と絶食群とを比較したRCTでは、早期経口摂取群での感染の危険性と入院期間の両方を短縮し、縫合不全も増加させなかったと報告されています。
しかし、早期経口摂取群では嘔吐の危険性が増加し、イレウス予防をしないと腸管拡張・呼吸機能障害・離床の遅れを生じる可能性があります。
また、術後に栄養補助食品を活用することが重要であることが示されています。
ベッド上安静はインスリン抵抗性、筋肉量・筋力、呼吸機能、組織の酸素化を低下させ、血栓塞栓症の危険性を増加させます。
硬膜外鎮痛は離床促進のための非常に重要な因子なんですね。
術当日は2時間、翌日以降は6時間以上の離床が望ましいと考えられています。
参考文献:「先輩ナースが書いた消化器外科ノート」
以上がERASイーラスについての概要になります。
また、手術成績を定期的に監査して成績などを比較検討して効果を高めるように取り組んでいくことも大切かと思われるんで継続的にモニターしていくといいかもですね。
以上、「エビデンス重視の周術期管理法ERAS(イーラス)を分かりやすく解説」でした。
最後まで読んでいただきありがとうございました。