投稿日2018-09-14 更新日:2021-01-21
整形外科の手術症例について、興味深い症例があったのでご紹介します。
野球などの球技は、練習で肘を酷使し過ぎると、とても肘の軟骨に負担がかかります。
プロ野球選手でも肘を手術したとか、投球のし過ぎで靭帯を痛めたとかよく聞きます。
少年野球の世界でもよくあることなんですが、ごく一部のコーチや監督は知識がないために子供の時期から野球という教育に託けて一生懸命に指導してしまいます。
その時によく起こす怪我が俗にいう野球肘というものです。
病名は、離断性骨軟骨炎と言います。
子供は症状があっても、表現方法が分からないので、痛みをだましだまししながら過酷な練習に参加して病院に受診して来るケースがよくあります。
この自己判断が問題でもあるのですが・・・
成長段階での無理な投球や過剰なひじの疲労は、後の野球人生を大きく左右してしまう怪我につながるので、本人も知っておきべきだし、指導者も知った上で伝えなければいけないと思うんです。
なので、今回は野球肘を起こした少年の治療を、手術内容を中心に紹介していきます。
少しでもリテラシーを持って野球などの球技を楽しくプレイしたり、指導してもらえたらと思います。
この記事を読んでわかる内容
- 離断性骨軟骨炎を実際に治療したことを紹介します
- 離断性骨軟骨炎がわかる
- 離断性骨軟骨炎の手術内容がわかる
また、オススメ書籍も紹介していますので、良かったらみてみて下さい。
では見てみましょう!
離断性骨軟骨炎(野球肘)で手術になった青年の症例
野球肘の手術内容を一言で紹介すると「肘関節遊離体除去術から肘関節形成術に移行した症例」となります。
もともと、中学生のころ練習のし過ぎで野球肘を成人してからもずっと持っていた患者さんで、現在25歳の男性。
当時野球少年だった彼は、肘の痛みを自覚はしていたものの、野球が好きだったし周囲の期待に応えようと、痛みを我慢しながら大好きな野球の練習に取り組んでいたそうです。
ですが、余りにも痛みが取れず慢性的になっていたのに加え肘の曲げ伸ばしが少しずつ悪くなってきたのだそうです。
症状は、痛みと関節が固くなるという、いわゆる曲げても伸ばしても痛いので拘縮が起きていた状態ですね。
止むなく彼は整形外科に受診しそのまま検査を受けましたが、診断されたのが「離断性骨軟骨炎」という病気で、すぐに手術したほうがいいと医師から告げられ手術を受けることとなったのです。
手術を受けて野球を続けることができましたが、後遺症として関節の拘縮が残ってました。
離断性骨軟骨炎とは?手術内容を紹介します。【野球肘】
ちょっとここで、離断性骨軟骨炎について説明しておきますね。
離断性骨軟骨炎とは、野球少年に多く発症するいわゆる野球肘の重症化してしまった病気のことです。
子供の骨は大人と違って軟骨が多く、骨との接着が未熟なんですね。
野球で行う投球や、バットの素振りで過度の負担が肘にかかってしまうと骨から軟骨が剥がれてしまい分離してしまうっていうのが離断性骨軟骨炎の特徴です。
この野球肘でよくあるのは、肘の関節にある一部の軟骨が剥がれたまま残り、成長とともに固まって関節の中に分離した軟骨が見られます。
レントゲンを撮るとすぐ分かります。
たまに分離した軟骨が悪さをして、炎症を起こしたり痛みを伴ったりするんですけど、大人になって関節鼠と言って摘出術を行ったりもします。
今回の症例は、子供のころに発症した離断性骨軟骨炎の進行が早くて一度手術をしていましたが、一部剥がれた軟骨が大人になても痛みを出して悪さをし始めていたのがきっかけで受診されたんでしょうね。
離断性骨軟骨炎の厄介なところは、野球をやっている限りどんどん進行してしまうということです。
なので進行が早くて発見が遅れると手術も出来ないほど軟骨が剥がれてボロボロになってしまいます。
そうなると野球は出来なくなってしまいます。
中には手遅れになるとスイッチングと言って、利き腕でない方の腕にスイッチしないとこのままでは野球を続けられないとこまで行きます。
嘘のようなほんとの話で、手遅れになった状態だと手術しても軟骨は戻せないし、進行する一方なので僕は何人も宣告を受けた野球少年を見てきました。
言うのは簡単でしょうが、子供のメンタルで受ける衝撃は計り知れないでしょうね。
でも、それしか好きな野球を続ける方法がないんですよね。
手術内容は剥離部分を人工骨で固定するという手術が行われますがその少年だった彼も固定術を行っています。
あれから10年が経ちましたが、一部の肘関節内に遊離した軟骨が形成され遊離体となって関節の可動域を制限していました。
つまり、関節鼠ってやつが悪さをしている状態ですね。
その頃から痛みを自覚し始め今回遊離体摘出術の手術をすることとなりました。
麻酔方法
- キシロカイン1%を上腕部橈骨神経ブロックと局所麻酔を組み合わせて行っています。
遊離体摘出から関節形成術の術式は?
- 皮切は肘部外側を約8㎝行い、皮下組織や滑膜を剥離していく。
- 腕橈骨関節を確認し遊離体をリュールにて除去していく。(大小合わせて5個遊離体がありました)
- 一部変形している箇所があったためそれらも除去していく。
- 関節面を滑らかにするため骨やすりで面を調整し、凹凸をなくしていく。
- 関節面を整えたら、ミニドライバーで上腕骨小頭部にドリリング(簡単に言うと関節面に小さい穴を空けること)を行う。(指骨ピン1.0mm)関節内を生食500mlで洗浄し、滑膜縫合と皮下縫合する。
- ペンローズドレーン(血腫貯留予防のため)を挿入し排液する。
- 皮膚縫合(ナイロン5-0)して終了となる。
- ギプス固定を上腕からMP関節まで当てて三角巾で吊る。(ギプス固定期間は4週間が目安です)
抜糸は10日後が目安です。
ギプス固定は週一回レントゲンで骨の骨癒合を確認しながら、ギプスを徐々にカットしていきます。(シーネ固定にまで持っていきます。)
その後晴れてギプスが取れたら徐々にリハビリ訓練を行って可動域を拡大していく。
なるべくリハビリに持っていきたいので早めに働きかけます。
リハビリ以外の日常生活ではまだシーネ固定を再固定しながらっていう移行期間も設けます。
まとめ
離断性骨軟骨炎からの遊離体摘出術適応となり、そのまま関節形成術に移行した手術症例について書いていきました。
なるべく簡単に書いたので手術自体簡単そうにイメージされるかもしれませんが実際はとても難易度の高い手術です。
普通なら全身麻酔で行われるレベルの侵襲と時間がかかりますので、これを腋窩神経ブロックと局麻のみを組み合わせてするのは熟練した技術がないと患者さんにとってハイリスクです。
野球少年は離断整骨軟骨炎と言う野球肘についてリテラシーを高く持っておいた方が良いですし、指導者も知識として知っておいて欲しい怪我です。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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